第1章 フューチャー・イズ・ワット・ウィー・アー

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 辛辣な表情で辛さをあおるミユキに対してわずかながら怯えるように制止するイルビス。彼はミユキから眼をそらしながらうつむいていた。ミユキの言うヒーローとは、1年前暴走していたU.L.との対話に成功した14、5歳ほどの少年少女のことだった。そして知的生命体の暴走はイルビスの父親が引き起こしたものだった。 「分かっているさ、父さんの起こしたクーデターが無茶なことだっていうのは。U.L.をせん滅しようとしたせいでヤンキー共が暴れ出したんだって。でも……」  イルビスは口をつぐんだ。 「でも?」  ミユキが問う。 「父さんのやろうとしていたことはあくまで世界を救うためのことだったし、それに父さんと似た考えを持った人や世界を救った2人から程遠い人まで弾圧する必要はないじゃないか」  世界を救った2人とは、イルビスが拾った雑誌にも写っていた少年少女のことである。イルビスはこの少年少女のことが原因で前の学校でいじめにあったことがあったのだ。 「あなたの気持ちもわからないこともないわ」  ミユキは一度息をついて、イルビスの方にまっすぐと目を向け続けた。 「でもね、あなたのお父さんが行おうとしたことは世界の破壊につながったことだし、あなたごと巻き込もうとしていたことでもあるのよ? そのことは忘れないでね」  イルビスには言い返せる言葉が思い浮かばなかった。思いつくはずがなかった。どれだけ自分が辛かろうと、父の犯した過ちは罪に値することをイルビス自身もよく実感していたからだ。だからこそある感情が湧いてきた。 「だからこそU.L.に選ばれない、父さんのような弱い人たちも守れる世界を作っていかなくちゃいけないんだ。そのために、どんな人間の価値観も尊重しなくちゃいけないんだろ」 「分かっている。でも守ってどうなるの? 弱い人を守ったところで、その人たちは強くなれないのよ」
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