1人が本棚に入れています
本棚に追加
「分かったわ。でも覚えておいてイルビス。今この世界を変えると言うことは、人々が目指しているものを見失わせるかもしれないということね。今人々にできないことも、いつかはやりたいと思っていることなのよ」
今、過酷な競争社会から離れていることがひと時の安心を得られ、他の世界でもそうなればいいと思う一方で、人間らしい人生が送れなくなるのではないかと2人は感じていた。
「ああ、分かっている。そのために人々を邪魔するものは取り払うんだろ?」
彼女の言葉にかなっているものの、イルビスの返事にミユキは表情を曇らせた。
「それであなたが納得いくなら、答えになるかもしれないわね。さあ、続きはまた明日。今日はもう帰りましょ」
イルビスは自分の自転車のハンドルに手を取ると、目をしかめて股がり、走らせた。
「ミユキはいつも俺の言うことを、子供のわがままみたいに受けとるんだな」
ミユキも口を尖らせながら、あとに続いて自転車に乗り出す。「あんたがそれだけ幼いってこと」
辺りはすっかり茜色に染められている。今イルビスたちがいるのは中立国の首都ミガロポリス。学校もその中にあり、隔離ブロックエリアは帰り道で立ち寄った場所だ。都市では中心部から広がるようにビルが立ち並んでおり人の栄華を象徴するかのようだったが、イルビスが内に秘めるくすぶりはどれだけ誇る栄華でも消すことはできなかった。それを見抜いたかのようにミユキが呟く。
「被害者が加害者になる、か」
南の下り坂を自転車で降りて20分もすれば町工場やバラック家が建ち並ぶ、都会とはかけ離れた下町の光景が二人の目に写った。
最初のコメントを投稿しよう!