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何かを忘れたかのように振る舞うイルビスだったが、彼は祖父と互いにある共通の予感を認識していた。
「お前だって分かっているはずだ。うちの精製場は軍のシェアを4割ほど占めている。つまり、敵にとっては無視できない拠点の一つになるだろう。もしものことがあったら」
「“ばあさんとミユキを頼む”、だろ?」
その言葉を聞いて祖父は険しい顔をして仕事を始めた。老い先が長くないであろう祖父からは同じような言葉を聞かされていたイルビスには既に聞き飽きつつあった文句だったが、中立地域の中で暮らしているとはいえ、戦争のただ中という状況に置かれていることを知ってしまえばその言葉もいよいよ現実味を帯びてくる。それでも気丈に振る舞うイルビスだったが、自分には今ミユキや家族を守れるほどの力を持っているだろうかという不安はあった。誤魔化すようにイルビスは祖父に催促した。
「余り根を詰めても体に毒だぜ。ばあちゃんの料理も出来ているし、キリのいいとこで来てよ」
イルビスはこれから訪れる現実に薄暗い予感を感じながら、鉄の扉をくぐりぬけてその場を後にした。
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