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居間に移ると、イルビスは目の前にその日の夕食を見ることになった。白米のご飯と味噌汁、大根と厚揚げの煮物にほうれん草のおひたし。いつもと変わらないようなメニューであったが、彼はそれを最後の晩餐であるかのように認識していた。食卓ではすでにミユキと祖母が座って食事を待っている
「イルビス、おじいちゃんとなに話していたのよ? ご飯冷めちゃうじゃない」
不満を顔に表すミユキに対しイルビスは軽く詫びた。
「あぁ、わりぃわりぃ」
少しだけ前屈みになったあと、丸い食卓の西側にある座布団に座った。ちょうど隣の北側にはミユキが、向かいの東側には祖母が座っている。
「じいさんは遅れるのかい?」
あぐらをかくと、イルビスは答えた。
「食事に来るようには言っといたよ」
祖母は顔をなごませておたまを手に取り煮物をすくいあげた。それを繰り返し、4つの碗に分けていれ、食卓においていく。すると祖母は呟いた。
「例え外が辛い中でも、我が家は平和だねぇ。いつまでも続けばいいのだけども」
祖母の顔が曇りがかって見えたのか、ミユキもそれに応えるかのようにうつむく。いつもは気丈なミユキのそんな顔を見てイルビスは意外に思ったが、彼女がこのような顔を見せるのは今に始まったことではないことを思い返した。「ねえ、おばあちゃん。私たちいつまでも一緒だよね?」
ミユキが震えるように小声で切り出す。
「そうだねぇ……」
それに対して祖母は柔らかく応える。
「なんとなくだけど、ここも戦いに巻き込まれるんじゃないかなって思うの」
イルビスは、ミユキの言葉から実家を狙われる心配があることを思い出した。
「ミユキ……」
その時、家の火薬精製所の方から轟音が聞こえたのだ。3人は轟音の方に顔を向け、表情をこわばらせる。
「まさか本当に狙われるとはな……」
イルビスの確信に、ミユキは戸惑いを見せた。
「えっ?」
あぐらの体勢を崩して立ちあがると、イルビスは火薬所の扉に向かった。
「なんでもない。とにかく俺、じっちゃんの所を見に行ってくる!」
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