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本編
その振動が途絶えた時、私は終わったと思った。
そして、圧し掛かる男の重み。首筋に感じる荒い息遣い。汗ばんだ身体が、私を抱きしめてくる。
(早く、その身体を離して)
緩慢な思考の中でも、それだけは思う。しかし、その意に反して、私は男の大きく逞しい身体に手を回していた。そうすれば、この男が悦ぶのだ。
(でも、離して。本当に嫌)
しかし、口に出す事など出来ない。もしそんな事をすれば、私はこの男に殴られ、更なる凌辱を加えられるだろう。
それは嫌だ。どうせ変わらないのなら、今のままでいい。
「絹絵……」
男に名を呼ばれた。
「お前はいい。お前の身体は、具合がいい」
私は何と言っていいか判らず、ただ頷いた。
「そうか、お前もそう思うか。そりゃ、そうだよな」
「うん」
そう言うと、男は私の首筋に舌を這わせ、乳房に手を伸ばした。
怒りも、憎しみも、悲しみも、何もない。ただ、この時間だけが早く終わればいい。それだけだった。
地獄だ。この世は地獄でしかない。
それを知ったのは、今から三年前。母だった女が消えて二年後。私が十一歳の時だった。
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