11人が本棚に入れています
本棚に追加
と、私の着物に手を掛けたのだ。
十一歳の私でも、それが何を意味しているのか、すぐに悟った。
悲鳴を挙げようとしたが、その口には手拭いが押し込まれ、無理矢理に実の父親である男のものを、捻じ込まれてしまった。
それが、地獄の日々の始まりだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「それは、さぞ辛かっただろうねぇ」
目の前に座した男がそう言うと、私は小さく頷いた。
「そう簡単に言っちゃいけないのだろうけど」
「いえ……」
男は、益屋淡雲という。益屋という両国広小路での両替商を中心に、米問屋、材木商、薬種問屋、海運業と手広くやっている豪商で、この〔慈寿荘〕と名付けられた、この寮の主でもある。
私は、その母屋にある客間に案内された。そこからは、大きな池と竹林を望む事が出来る。
「それで、此処に来た理由は?」
淡雲の目が光った。歳は六十ほどだろう。小太りで中背。終始笑顔で人の善さそうな印象を受けるが、目の奥は笑ってはいない。
「それは……」
「話を聞いたのだね?」
私は頷いた。
その通りだった。本当に困った事があれば、根岸にある慈寿荘へ行くと良い、と。
最初のコメントを投稿しよう!