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「お父っちゃんの事は承知したが、おっ母さんはどうなんだい?」
「おっ母さん?」
思わぬ質問に、声が上ずってしまった。それに気付いた淡雲は苦笑して、言葉を続けた。
「そうさ。お前さんの話を聞くに、全てはおっ母さんが、男をこしらえて出て行った事が発端じゃないのかね?」
「……」
私は答えに窮して俯いた。
確かに、母は憎い。母が男と逃げた事で、父は凌辱されたと言ってもいい。父に抱かれながら、母を呪った事など、一度や二度ではないのだ。
「でも、母はいいです」
「ほう」
「母は親である事より、女である事を選びました。それは憎いですが、母はもう他人なので」
そう言っても、許したつもりはなかった。許すというより、興味がないと言うべきで、父の魔手から逃れられると思えば、もうどうでもよかった。
「そうか。お前さんがそう言うのなら、ね」
淡雲はそう言うと、茶に手を伸ばした。猫舌のか恐る恐る啜っている。
「よろしいでしょう。この依頼、お引き受けいたします」
「本当ですか?」
「ええ。ただ、こっちで調べはさせてもらうよ。お前さんを疑うわけじゃないが、人をひとり屠るわけだからね」
淡雲の表情が、一瞬だけ真顔になった気がした。その凄みがある眼光に、私は息を飲んだ。
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