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1. 長閑な気分だ。 身を包む暖かな空気と時折訪れるそよ風が心地好い。 今は午前十時丁度。 四月も終わりかけた頃だ。 僅かに散り遅れた菜の花の残る緑の堤防と、視界には入らぬが涼やかな清流の存在がより一層の穏やかさを演出している。 この河原から南を見ると、堤防の上にその先に控える市街地の中層建築物の上部が疎らに顔を覗かせているのが見える。その尖塔状の輪郭は立ち昇る水蒸気と暖かな空気を纏って心なしか揺らめいているように感じる。蜃気楼のようだ、とまではいかないものの何処かで見た光景だと思った。..そうだ、開聞岳だ。かつて内之浦から佐多岬に向かう途上で見たあの景色だ。東シナ海の霞の中に浮かぶそれを初めて目の当たりにした時は竜宮城の巨影のように感じたものだ。
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