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 抵抗しなければいけないことは、本当はわかっていた。  これは神前での誓いと全く同じ意味を持つ、永遠の束縛の口付けだった。 「っ、ん……っ」  流されるまま重ねられた少女の唇から、少女が抑え続けてきた闇――黒い翼が彼の臓腑に潜り、心臓を掴むようにその根を張っていく。  少女の命を奪っただけでは、黒い翼は彼に遷り切らなかったらしい。  それはおそらく、彼の中に違う命が既にあること。この天国に来て繋がれたものが、黒い翼から彼を守っていた。  浸食してくる少女の闇に、崩れ落ちることしかできなかった彼から、不意に少女の気配がすっと離れた。 「悪いけどさ。一応、不純同性交遊禁止だから、ここ」  心から眠たく億劫そうな声が、呑気に彼の背後から響く。  その死神が現れた直後に、今度こそ少女は闇に還るように、彼の目前で霧散してしまった。  消える寸前に、彼とよく似た少年――黒ずくめの服装をしている、黒い翼の姿に変わりながら。 「それはお前自身の闇だよ。お前はとっくに、その闇に隠されちゃったんだよ」  座り込んでしまった彼は、口移しされた悪意を吐き出すように激しく咳き込む。  後ろではそんな彼を憐れむように、死神が大きく溜め息をついて両腕を組んでいた。 「それでもお前は……そいつのことを、助けたかったの?」  かすかな残滓のような少女の闇ですら、彼は拒むことができなかった。  彼が少女を手にかけた理由は、たった一つだった。その黒い翼を、彼が引き受けるため……永い闇から少女を解放するには、それしかないことを彼は知っていた。
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