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外来の丸椅子にちょこんと座る刃の口上を、埒外者の命乞いと受け取ったらしい。両腕を組んで立ち尽くす鴉夜は、難しそうな顔付きで刃を見下ろしてきた。
「……まだアナタを、討伐する気はないから。下手な甘言で誑かそうとするのはやめて」
一見はとてつもなく不機嫌に見えるが、刃は内心でほっこりとしてしまう。
鴉夜は不器用だが、鈍い人間ではない。上手く解釈はできていないものの、刃の好意には気が付いている。先程の喋りが「甘言」と聴こえているくらいには。
幸薄い育ちの鴉夜に、僅かな心遣いだけでも受け取ってほしかった刃は、務めて能天気な笑顔を浮かべた。
「大丈夫っすよ! 鴉夜さんにちゃんと旦那がいるのは、オレ、知ってるっす!」
鴉夜の目付きが一瞬で過剰に険しくなった。オイ、と院長が思わず退いている中、場の空気が急激に凍結を始める。
「誰があんな――五年以上も人にペットの世話を押し付けていく奴……!」
その言い草にも、刃は笑いを堪えられない。問題はそこかとつっこみたくなるのを、抑えるだけで必死だった。
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