_Side Kei.

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 橘診療所の外来室には、院長室と受付に続くドア以外に、四方の壁に一つずつドアがある。それぞれが数多な異世界に繋がるという稀少な中継地点を、鴉夜が暴発して吹っ飛ばす前に、院長は義理の娘をさっさと追い払っていた。  元々鴉夜は、様々な場所に行くためにここを通過するだけで、滅多に留まることはない。診察場とドアの間もカーテンで仕切っており、院長と顔を合わせることもあまりないという。 「ああいうところが、あいつの弱味だな。全然変わっていない」  溜め息をついて煙草をふかす院長に、丸椅子上で器用にあぐらをかきながら刃は笑いかけた。 「えー。神の温情など知らぬ、人間もまた求道者って感じで、いいじゃないっすか、クールビューティー」 「元凶のオマエが言うな。いつまでそこの妖魔の皮を被ってる、アホ(けい)が」  鴉夜がいなくなったので、遠慮なく口に出されたある真名。  その名の主を探す養女を知っていながら、院長は秘密裏に匿っている。灯台下暗しとあえてここで面倒を見る苦労性に、刃を名乗る金髪の少年は、たははと苦笑うしかない。
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