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院長の縁戚である橘炯は、わけあって、この少年――「刃の妖魔」に、少し前から寄生している。勿論妖魔からは非難轟々だが、妖魔と共通する目的があるため、辛うじて体を使わせてもらっている。
「オマエをずっと探すアヤに、いつまで無駄骨をさせる気なんだ。この人でなしの蛇の悪魔が」
「それは言わないでぇ。オレも苦肉の策なんよ、刃くんにも無理言ってるのはわかってるんよー」
悪魔である炯が体を使う影響で、刃の精霊はほぼ完全に妖魔となってしまった。それでも刃が炯に従うのは、ただ一点、刃もバイト仲間時代に惚れていた鴉夜を守るためだ。
しかしこの憑依体質の体には他にも一つ問題があり、そちらについては、炯と刃は完全に敵対している。
刃にとってこの体は、「師匠」と呼ぶ少年のものであり、それを炯が使うのは許せないようなのだが、肝心の「師匠」が体を使わない。同じ体の内にいるはずの時雨という存在は、欠片も顔を出そうとしない。
そんな奇妙な関係の三者は、誰もがおそらく、鴉夜という不遇な少女を守りたいと思っていた。
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