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近頃よく顔を見かける妖魔に、その都度小さな説教をされる橘鴉夜は、己に不可解なストレスが溜まりつつあるのを自覚していた。
橘診療所以外に家のない鴉夜は、度々泊めてもらう知人の玖堂咲姫の下宿で、寝床の黒いソファに膝を抱えて座り込んでいた。
脳裏に何度も、他愛のないやり取りがしつこく再生される。
――せっかくの人間のぬくもりが勿体ない。
女好きでお気楽な妖魔に、もっと色々、何か言い返したかった。
悪意ではない、むしろお節介の言葉とはわかるのだが、鴉夜の心中はざわざわと騒いで鎮まってくれない。
本当に、「ぬくもり」が良いものであるなどと、いったい誰が決めたのだろう?
立て襟の服を愛用する鴉夜は、幅が広くゆったりとした襟ぐりに潜ませている小蛇に、文句を言うように話しかける。
「……あたしはそんなに、物欲しそうに見えているわけ?」
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