_Side Aya.

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 そもそも、神の使徒に罰されないことを「ぬくもり」と言い替える意味もわからない。  それは人間が、世界というシステムそのものに影響力のない弱小存在だからであって、罰則が緩いことを温かいというのはおかしい。  世界とは「理」で成り立っている。化け物が扱う神の神秘――「力」とは、この理そのものを揺がす奇跡だ。聖書に載る秘蹟などは、ごく一部の「力」に過ぎないだろう。  「力」に縁のない人間だけの世界には、そもそも「本物の神」もほとんどいない。橘診療所の大きな得意先、鴉夜が今いる日本は特に、妖怪や鬼など、何でもかんでも神認定する国だと養父が教えてくれた。 「カイみたいな神眼持ちが、隠居して引っ込んでるせいでしょ……でなければ……――」  もしも養父のような「神」の一端が、故郷のような僻地に目を光らせてくれていれば。  そう思いかけた瞬間、ぼやいた声の出所より深い体の奥で、身の内から背中を破るような激痛が突然走った。 「っ――……!」  いけない、こんな弱音を吐いてはいけない。  思ってすらいけないのだと、生贄の少女は両膝をきつく抱きかかえ、頭を埋めながら必死に呼吸を殺した。
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