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鬼火というのは、地獄の青い炎と言われ、通常の火とは逆の性質を持つ。虚熱と言われる鬼火は「周囲環境の熱を吸収する力」であり、奪った熱を以って炎と成す。
つまり鴉夜にとって、熱――ぬくもりとは搾取するものだ。悪い魔女を殺すために、日夜集め続けた凶器なのだ。
「だから……別に、温かさ、なんて……」
その「熱」が鴉夜にとって、全く違う意味を持った日。
魔女の討伐に使うまではと、人間の弱い体にひたすら溜め込み、激しい苦しみしかもたらさなかった熱。それを、突然現れた陽気な蛇の悪魔は、自分が引き受けると言い出したのだ。
「あんなの……温かくなんて、なかった……」
黒鳥様を調査しにきたという、同年代に見える旅人の少年は炯と名乗った。珍しい鬱金の髪と、笑顔のわりに鋭い青白の目には怪しさしかなかったが、黒鳥様の元まで案内してほしいと言うので、いよいよ討伐に向かう鴉夜に炯は同道することになった。
――オレは、あんたに消えてほしくないんよ。わかる?
一目惚れしたと言って憚らない炯は、しきりに鴉夜を止めた。この村は何かおかしいと、可能な限り鴉夜の道中を引き延ばしにかかったのだ。
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