_Side Aya.

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「それなのに……嘘吐き……――」  思い出を手繰っている内に、肌寒い空気が居間に立ち込め、すっかり外も暗くなった。  もう少しすれば、この家の主も帰ってくるだろう。炯の姉のようなもの、と自称する咲姫には、無責任な弟の文句を言わねばならない。 「一緒に逃げようって……言ったくせに……」  鴉夜の熱を根こそぎ奪っておいて、魔女の社に辿り着く直前に、炯は突然、魔女を殺すなと言い出した。契約不履行で炯の番にはならなくていい、だから熱は渡さない――鴉夜に鬼火は使わせないと。  その時、自らの激震と共に感じたことを、鴉夜は今でも上手く言葉にできない。  とても追い詰められたのは確かだ。魔女を殺すためだけに育てられたのに、これではどの面を下げて村に帰れば良いのだろう。  しかし、社から出てきた魔女――鴉夜を待ち受けていた女の顔を見て、鴉夜は全ての嘘を知った。森の最奥の社にいた魔女は、他ならぬ鴉夜の母だったのだ。
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