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こんなことになるなら、きっとあの時、鴉夜は消えていれば良かったのだ。
母がいつから、完全に悪神だったのかはわからない。兄は悪神の子ではないし、幼い頃の記憶にいる母は、あんな妖艶な微笑みを見せなかったと思う。
母の目論み通り、魔女を――母を殺す役目を終えて、後は悪神にこの身を渡せば良かった。炯がいたせいで、抵抗すると決めてしまったから、今も鴉夜は独りで闘い続けている。
たった一つの、契約という嘘。陽気な悪魔の少年がくれたぬくもりのために。
――だからここは、一緒に逃げよーぜ? オレの嫁になってもならなくても、鴉夜にはヒトを殺させたくないんだよ。
そんなことを言っておきながら、いなくなってしまった無責任な悪魔。そうした相手に、役目を果たすためだけに生きた鴉夜の気持ちがわかるわけはない。
なのにどうして、鴉夜はその手を取ってしまったのだろう。この時の炯を思い出すと、胸が熱くて肩の震えが止まらなくなる。
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