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人は死んだら、何処にいくのだろうか。
何処にもいかない。ただ消えるだけだと、「彼」は思っていた。
天国や地獄、よしんば生まれ変わりがあったとしても、特に意味はないと思った。何故なら普通、誰もそれを覚えていないからだ。
自分が自分だった理由。自分が関わったはずの何もかも。
覚えていなければ、無かったことと同じに思えた。
今もずっと、彼の内で可憐にこだまする、見知らぬ誰かの声のように。
――……待ってる、から……。
ごめん、と。いつも苦く笑うことしか、彼にはできない。
帰りたいかときかれたら、きっと、帰りたかった。
それでもとっくに、彼は全てを諦めたのだ。
薄汚れた彼には望むべくもない、温かな赤い空の夢を。
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