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高き空を往く獣を、人は鳥と言う。自由の象徴と言われる獣に、大いなる羨望を込めて。
翼を与えられたものだけが、そうして天に往ける。天とは元来「神」の坐す場で、現し世のものには手が届かない高みなのだ。
しかし中には、あえて空への切符を渡されたものがいた。
夢うつつの瞼をふっと上げた瞬間、彼の目に映った、天上の鳥と呼ばれるヒトのように。
「――あ、起きた? オレの相方くん」
「……――……は?」
にやにやと、端整な顔立ちが勿体ないあくどさの笑顔。月光だけを頼りに、青みのある黒髪が短く揺れる秀麗な青年が、彼を斜め上から覗き込んでいる。
部分的に長い硬質な髪が、鋭い蒼の視線を和らげるように、無造作に切れ長の目にかかる青年。よく見れば長い睫毛や、輪郭の柔らかさがとても女性的だ。
何故そんな綺麗な誰かが、仰向けに転がる彼を見下ろしているのか、さっぱりわからないのが痛いところだ。
誰かは彼の横にあぐらをかいて座り、膝に腕を立てて頬杖をつきながら、皮肉げとしか言えない顔で再び微笑んだ。
「天国へようこそ。良かったら、ゆっくりしていきなよ」
彼にはそれは、死の宣告よりも重い、気軽過ぎる一言だった。
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