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がばっと起き上がった彼を、謎の青年が不思議そうに見つめた。
軽装で華奢な青年の背後に、夜空が広がっているのがまず見えた。
「って……え……!?」
黒ずくめの自分――黒い無袖のインナーにズボン、黒いバンダナを巻く腕を起点に、温かみのない全身が痛む。胸元には蝶型のペンダントが揺れ、こんな服装をしていたことすら、彼はほとんど記憶になかった。
「ここ――どこ!?」
「どこって。だから、天国だって」
意地悪そうに笑う相手の声に、誠実さの欠片もみられはしない。
繰り返し天国と言っているが、それはこんな、月明かりだけの森と石畳が広がる謎の場所ではないはずだった。
見渡す限り、木、林、深い草叢。そのわりに彼らのいる場所は、綺麗に舗装された石の道だ。何処かとても広い庭園の一角かもしれない。
しかしあまりに、地味に過ぎる。そしてそれ以上に、納得のできないことがあった。
「俺が天国なんて……いくわけ、ないだろ……!」
何の罪かは全くわからないが、自分は確か咎人だった。その意識だけが彼には残っている。
あー。と、彼の動揺を納得したように、青年が近くの大きな木にもたれかかり、両腕を組んで彼を見つめた。
「それは、仕方ないね」
透き通るタイプの声で、ゆったりと言う。そのわりに、何が仕方ないのか、彼に問わせる暇もなかった。
「オレがお前を連れ込んだから。オレ、死神だから」
ただ二言で青年は、全てを解説してしまった。というより、説明した気になったらしい。
呆ける彼を前にして、その後は何も喋らずに、含みのある顔で微笑んでいる。
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