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暗くてよく見えないが、自称死神の青年は、黒のハイネックに明るいシャツを重ねる白黒の姿をしている。
死神と言われても、全く納得がいかない。銀の腕輪と透明なレンズ状の珠をペンダントにしていること以外、鎌などの武器らしき物も何もない。
「ここが天国――アンタが死神だって?」
きょろきょろと辺りを見回して立ち尽くす彼に、自称死神が、そうだよ、と笑う。
「こんな所が、天国? 天国って、あの天国だよな?」
「どんな所が、どの天国かは知らないよ。お前は何のことを言っているの?」
おかしいのはまるで、疑問を持つ彼だと言わんばかりだ。呆れたような顔の死神が彼を訝しげに見据える。
彼の言う、天国とは何か。それを真面目に問われたら、彼も考え込んでしまう。
ここが違うと思うのは確かだ。しかしそれは、何と比べて違うのだろうか。
「天国っていうのは……」
大分考え込んでから、ためらいがちに、何とか彼は切り出していた。
「……俺も全然、よくわからないけど」
何故今、この答が出たかは、彼自身にも不明だった。それでもやっと思い付いたことを、面白そうな顔をして聞いている死神に続けた。
「天国って……酒がうまくて、ねーちゃんが綺麗なところだって、俺の中で何かが言ってるんだけど」
馬鹿にされるだろうと、言いながら思った。口にした瞬間に下らなさを後悔した。
しかし自称死神は、思いの外真剣に、彼の言葉に考え込む様子をそこで見せていた。
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