_序:

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 初対面の彼を、相方くんと呼んだ自称死神。  その目的は先の言葉通り、彼にここを守らせることらしい。死神は何も嘘をついていないと、そこまで彼には不思議と感じ取れる。 「……悪いけど、他を当たってくれ。俺は……」 「俺は、何? 何か不都合でもあるの?」 「……いや、わからないけど。でも……」  死神があざとく笑うのも当然だった。彼にこれまでの記憶がない以上、断る理由もないはずなのだ。  まず、断れる立場だろうか。この場所が何かはわからないが、自称死神にはどれほど権力があるかも知れない。  黄昏時の闇が、段々と深くなってくる。森には鳥の声一つせず、彼と死神の間に深い沈黙の時が流れる。  ここに彼らの他に、何かがいるとは思えなかった。それほど辺り一帯は静寂に支配され、天国と言われたことが、やっと少し納得がいってきた。  そもそも彼は今、生きているのだろうか。  腕をつねってみても、あまり痛みを感じない。けれどないわけでもない。  呼吸をしなければ体がだるくなるが、なくても何とか動けそうだ。  そこまで自覚したところで、不意に――  もしも自分が、死んでいないなら。その状況は彼の背に、突き刺すような冷感をもたらした。  ひょっとして、まだ自分は、消えていないのか。  消えなければいけなかった――……やっと消えることができた、そのはずだったのにと。
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