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 とりあえず彼は、闇雲にそれを決めた。死神の提案には、決して頷かないと。  思い出せないだけで、きっと拒否感の理由が何かあるのだ。それがわからないまま、なし崩しに流されたくはなかった。  死神は幸い、強引な性格ではないようで、そうした気力もないタイプに見えた。  あれから彼がだんまりを決め込むと、何やら彼に背を向けて歩き出した。ついていってみると、無人の人家がいくつも存在する里が現れ、その内の一つで、死神は何も言わずに寝付いてしまった。  それからずっと、死んだように眠り続けている死神を、宵闇に汚染された目で彼は観察してみる。 「……無防備過ぎるだろ、これ」  石の床の上、死神は横向きに丸まって薄い毛布をかぶり、青白い顔色には全く表情が浮かんでいなかった。呼吸をしているかも怪しいくらいに静かに寝ていて、およそ生活感がない。  じめじめとした家屋には、暖炉が備え付けられている。薪がくべられた形跡はなく、家内は夜の空気でひんやりとしている。  壁に穴を開けただけのような窓は風通しが良い。この湿気でカビが生えていないのはその効果だろう。石は通気性が悪く、揺れにも弱く、住む場所にはあまり適さないと誰かが教えてくれた気がした。  することがないので、寝ている死神を放って人家を出てみた。  森の出口すぐにあったこの集落は、石造りの四角い人家が多かった。地震にでも襲われたかのように、壁が崩れたり屋根が落ちたりしている所だらけだ。 「これが……天国、って……」   どう見てもそこは、何かの惨事で人が住めなくなった廃墟だった。  死神が休んでいるのは、辛うじて原型を保っているだけの、大した家具もない集会所のように見えた。
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