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 段々と、洒落にならないほどに、頭が痛くなってきていた。  謎の居住区のことに思いを巡らせていたが、不意に、何て時代錯誤な。と思ってしまった。そこから更に頭痛が酷くなった。  時代って何だ。何と比べて何がおかしいと、自分は思っているのだろう。  記憶はないが、彼の住んでいた所とは違うのかもしれない。この石の里に違和感を持つくらいなら、少しは記憶が戻ってほしかった。  街灯もなく、影絵のようにしか見えない里を、これ以上散策するのは諦めるしかない。  目の奥が締め付けられるようで、頭がふらふらとした。陽が昇るまでは休む方が良さそうだった。  そうした気持ち悪さを自覚した途端、背中の奥に、鋭い何かが刺さるような冷たい感覚が走った。 「……、え……?」  思わず首の裏に手をやると、指先にはどろりと、赤黒い何か――一目で吐き気を催すような、気持ちの悪いものが見えた。  それが何か納得する前に、その場で彼の意識は遠くなった。  誰もいない里の、ヒビだらけの石の道に、膝をついて両肩を抱える。  今まで気付かなかったのが不思議なくらいに、全身から血の気が失われていた。  それもそのはず、彼の薄く脆い背中は、彼が天国へ来た理由……その黒い翼に、とっくに突き破られていたのだから。  そのまま俯せに倒れ込む前に、くすりと誰かの、あどけない笑い声が聞こえた。 ――ここが……天国って……?  暗い闇に呑み込まれた、石の廃墟を縁取る森で。  真っ黒な影を持つ誰かが、無様な彼を見て笑っていた気がした。
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