_1:

5/10
前へ
/90ページ
次へ
 混乱が増すだけの天国の夢は、朝日の眩しさで早々に振り切られた。  見知らぬ道端で目が覚めた彼は、改めて現実を噛みしめるしかなかった。 「この『天国』は……夢じゃ、ないのか……」  一つだけ、夢のおかげで気が付いたこともあった。  天国というのは、人によって定義が変わるものなのだ。夢に出てきた者達の「天国」は、あくまで彼らに居心地がいい場所を指して言っていた。  当たり前のようだが、彼にはわからなかった。彼にとって、居心地がいい場所……そんなものは全く思い付かないからかもしれない。  鈍く褪せた白い石の廃墟と、周縁を取り巻く雑草だらけの薄暗い森。  石の道は森の中もずっと続いていたので、昔はもっと手入れをされていたのだろう。道から外れたら何があるかわからないが、おどろおどろしさは全くといってない。  緑をあえて多く散りばめた、人工物の国。そんな風に今の、何もわからない彼の目には観て取れていた。  ここを天国と言ったあの死神には、これで居心地が良いのだろうか。  少し気になって、特に行く当てもないので、死神が眠る人家に戻ってみることにした。  もういなくなっているかもしれないと、何故か少し、期待してしまったのだが……。 「……まだ、寝てるのか」  昨夜から寸分違わぬ寝顔で、相変わらず丸くなっている青年がいた。違うのは朝の明るさで、はっきりと姿が見えていることで――  思わずため息をついてしまうほど、眉目と体型に隙のない麗人がいる。  昨夜も綺麗だとは思った。拙い弓張り月の淡い光は、この儚げな青年によく似合っていた。
/90ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加