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 これ以上特に、待つ理由もないので、陽が落ちる前にもう行こうと彼は決めた。 「……とりあえず、この『天国』から出よう」  誘いを断った彼に、死神が執着しているようにも見えない。  何処に行けばいいかはわからないが、それも探す心づもりで行くしかないだろう。 「とにかく何か――何か、しないと」  いつも彼は、よくわからない焦燥感に駆り立てられる。  じっとしていると、落ち着かなくなる。今までは死神の観察で、辛うじて間が持っていただけだ。  いつもとはいつのことだったかと、また考え込みかけたが、頭を振って重い腰を上げた。  彼が出て行こうとしても、死神は何の反応も見せない。昨日はあれほど喋っていたのが嘘のようだった。  全く所在のない彼に比べて、安らかとも穏やかとも言えない、ひどく無機質な寝顔の青年。  昨夜はまだしも、楽しそうだった。少なくとも生き物だったが、ここで眠り出してからは、凄く精巧な人形でないかと思うほど、その身は静寂に包まれていた。  石の家を後に歩き出してからも、彼の心中は、死神とは対照的な喧噪で満たされていた。 ――俺はここに、いるべきじゃない。  方角がわからないので、太陽を追う方向に行く。普通なら西であるはずだろう。  集落を囲む森に入ってすぐ、また、体が重くなった。 「……?」
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