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 こんなに僅かに歩いただけで、全身が死体になったようだった。首にかかる蝶型のペンダントが重く、腕に巻かれた黒いバンダナまでがきつく感じる。  それでもとにかく、進んでみるしかない。ひたすら続く暗い森に、気持ちだけが焦る。  まるで何かから、逃げようとしている。今の自身の状態を、彼はそう感じ始めた。 ――俺は……何を、したんだっけ……?  この居た堪れなさは、結局、咎人のそれだ。追われているかはわからないが、落ち着くことができない――落ち着いてはいけないと、自らの何かがずっと囁いている。  死神は彼に、ここを守ってほしい「相方くん」と言った。その理由だけでも聞こうかと、先刻までは目覚めるのを待っていた。  けれど耐えられなくった。起こすことすらも思いよらず、体は逃げることだけを望んでいた。  あまりに何もなく、誰一人いないので、己の内のそうした胸騒ぎがとてもきつかった。紛らわすものがない不安は、大きくなる一方だった。  森にも鳥一羽すらいない。獣の息遣いは皆無で、ここに在るのはただただ、理由もわからず逸る彼の心だけだ。  この静か過ぎる「天国」において、目障りに動く物体は彼の身一つだけ。  何があれば、胸の悪さが止まるだろうか。吐いてしまいたいほど不快な体で、うまく動かない足を引きずり、とにかく歩き続けた先で――  そこで出会った、ある答に、彼はひどく納得することになった。
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