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 天国とは何か。直接そうきかれたら、その死神は単純に、「天にある国」と答えただろう。  余分な煩悩のない機械的な死神に、「居心地のいい場所」など思うべくもない。  そんな渇いた内面を映すように、味気ない空に浮かぶ小さな国を、じりじりと侵そうとする黒い雲煙。  真っ白な雲海に身を投じたはずの彼に、真っ先に届いたのは、天国の空に嘴を挟む黒い鳥達の姿だった。 ――……え?  まるで透明なリンゴが、黒煙に齧られているかのようだった。  白い大地を囲む球形の空を、そこかしこで黒い雲が侵蝕している。  彼が飛んだ方向にあるのは、真っ白く見える天空の果て。汚れた彼を受け止めたせいか、その軌道の雲は黒く穢れてしまった。 「……っ!?」  汚してしまった雲に混じった瞬間、流れ込んできたもの。  天国全体が蝕まれる光景は、おそらくは、眠り続ける死神の見ている夢だった。  何故それがわかるのか、今の彼にはわからない。それでも、その薄気味悪い悪夢を見た途端、ひどく納得するものがあった。  死神がああして、一人で蹲っている理由。  天国を守ると言ったのは、この黒い悪意の侵入を指していたのだと。
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