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 遠目に見れば、暗雲がかかっただけのような映像。しかし彼には、その黒い雲を象るのが無数の黒い鳥だとわかり、瞬時に吐き気を催していた。  うごめく黒い鳥の群れは、天国の空に穴を開けようとしている。ただの鳥なら地味な光景なのに、その一羽一羽は、頭部だけがヒトのようで醜悪だった。  地獄があるとすれば、そこに住むのはきっとこんな鳥だろう。まるで激痛を味わっているような顔で、歪んだ叫喚をどれもが放っていた。  彼が空の一部を黒くしたことで、そこに気付いた大量の害鳥が、彼を目がけて迫って来ていた。  どうやら彼は、とても傍迷惑なことをしたらしい。このままでは彼が染めた黒墨から、この鳥達が天国に押し入ってしまう。  それが何を意味するかはわからないが、彼のせいであることだけは間違いがなかった。 ――アイ、ツ……!?  正確には、彼をここに連れ込んだという死神の責任かもしれない。  けれどその些細な記憶にも思い至らず、彼はただ、それだけを願った。  この黒い穴を、何としても塞ぐ――  再びこの天国に、鍵をかけなければいけないのだと。  そう思った瞬間、何処にいるかもわからない彼の背中に、激しい痛みが冷たく走った。  真っ白な空を黒く染めて、何処までも堕ちていく彼に、それはある永い約束の痛みを突き立て始め――  気が付けば彼は、昨夕と同じように、白い石の地面に倒れ込んでいたのだった。
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