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 自らの記憶が全くないのに、常識や知性が残されている彼。  死神はそれを、憑依されやすい体質による他者からの借り物だという。  説明されたわけでも、断言されたわけではないのに、死神がそう言おうとしていると、彼には手に取るようにわかった。  その状態も不思議だった。思えば先程の悪夢も、死神が見ているものだと思ったのは、死神のそばにいた時に同様の空気を感じていたからだった。 「そうそう。お前はそうやって、周囲のことがわかるから、同じように妖の思考も読み取って、無意識に真似してるんだよ」  よっこらせ、と死神が彼の前にあぐらをかいて座る。  眉をひそめても否定はしない彼に、今夜は話し合いの余地があると思ったらしい。 「オレを手伝いたくないのは、多分妖の意向だと思うけどね。ここにこうして、お前が戻ってきた以上はね」  簡単に天国を出れはしないと言ったくせに、彼がここにいることも死神は不可解のようだった。  だからわざわざ目を覚まして、出戻った彼に会いにきたのだ。  本当はまだまだ眠っていたいと、気怠さをおしても、彼と話をしにきた死神なのだ。  彼自身、天国から飛び立ったはずの自分がここにいることに、考え込まずにはいられなかった。  この場所にまだ、いたいというわけではない。むしろ早く、出て行きたいのに、今は駄目だと自身の何かが訴えていた。
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