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 そんな彼の本音を見通すように、死神が軽く嘲りを浮かべた。 「本当のお前自身の意思は、ついさっき、ここから消えようとしたことくらいじゃない?」 「――……」 「お前は何かしなきゃって、焦って戻って来たみたいだけど。お前はそうやって、いつも何かに駆り立てられてるみたいだけど」  彼を先程、「周囲のことがわかる」と評した死神だが、死神の方こそ大概だった。  彼が自分自身でも、よくわかっていなかった心を、死神は易々と――ずけずけと踏み込んでくる。 「それでもお前は……本当に、何かしたいの?」 「……――……」  何一つ私情を挟まずに、彼をじっと見据える深い蒼の目。  この死神はおそらく、彼に何も期待していない。もしも彼が望むなら、協力してもらおうという程度に過ぎない。  だからなのだろうか。暗い辺りに溶け込むような死神に、彼はその、おそらくは本当の答……消えそうな自らの心から拾い上げた、弱音を吐き出していた。 「……しなくていいなら……もう、何もしたくない」  死神は他意なく笑うと、だろ? と、彼が死神を拒絶した真の理由をあっさり受け入れる。  昨夜からわかっていたのだろう。だから無理強いしなかった相手に、彼は俯きながら先を続けた。 「でも……しなきゃ、いけないと思う」  震える彼に、どうして? と尋ねる。  彼は正直に、わからないと答えるしかなかった。
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