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 ここにいても、彼には何もすることはない。死神が改めてそうして、現実を伝える。 「ここを守るのは嫌なんだろ? ここにはお前の言う通り、ヒトも動物も、文明も文化も、ホントに何もないからね」 「……」  彼自身、どうして、何もないのが嫌なのかはわからない。それでも今も、こんな廃墟のために動くのは嫌だった。ここにずっといなければならないなら、今度こそ飛び立ってしまいたいほどだった。  退屈という概念にも近いのかもしれない。何もないなら呼吸する意味がない。目を覚ましているなら理由が必要だと、体の奥が軋んでいるのだ。  そもそも彼にできることもなかった。死神がこの地をどう守っているかは知らないが、彼には死神に協力できる心当たりが、全くといってない。 「ここを守るっていうのは……俺に何を、どうしろってことなんだ」  無力な彼の自覚を裏付けるように、死神がこてんと首を傾げた。 「いんや? お前は特に、何もしなくていいんだけど」  やはりそうだった。だから彼は、何もない――何もしないだろうここでの暮らしが、耐え難いものだと最初からわかっていた。それが何故わかるのかは、「周囲のことがわかる」と死神に言われても、未だによくわからないが。  しかし死神はここで、意外な内容を先に続けた。 「ただお前が、生きてるだけでいいよ。生きてるなら別に、ここにいなくてもいい」 「……へ?」 「生きるための力は、オレが分ける。オレの羽を、生やしてるだけでいい」
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