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 詐欺だとしか思えなかった。そんなことをして死神に、いったい何の得があるのだろうか。 「俺が生きるための力を……アンタから、もらう?」  背骨の髄を鈍い嫌悪がせり上がる。昨夜から何度も感じた背中の痛みに、思い当たることができてしまった。 「今、こうして話してるのも……ひょっとしてアンタの力?」  自分自身が生き物であると、彼はどうしても思えなかった。天国などに来る前に、確かに彼の意識は一度閉じたはずだ。以前のことを思い出せないのも、おそらくその影響だろう。  それなのにこうして、蝶の妖魔から借りたらしき知性で喋り、今現在を観る意識があること。  そこからして不可解であること……彼を生かしているものがあることに、やっとそこで気が付いていた。  死神はにやりと笑うと、黙って彼の目を斜めに見つめる。それは肯定の意を示して余りあった。  彼は既に死神の力で、死神の意向で生かされている――死神の羽を植え付けられた死者なのだと。  気が遠くなりそうだった。何故そんなことになったのかはわからないが、彼は即座に抗議を申し立てた。 「いらない、返す。アンタの力なんて、分けていらない」 「残念でした。オレにもどうやって止めればいいか、よくわからなくてさ」 「そんな……無責任な」  死神は嘘をついていない。話していないことはあるが、あえて話す理由がないだけのようだった。
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