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空に浮かぶその国の、中央部分という「塔」に来ると、冷たい床で死神はまた寝付いてしまった。
色褪せた金箔がところどころ剥がれ、非対称に凹凸のある四角錐の細長い建物。そこまでの道中で何とか、「塔」や「天国」については色々と聞いたが、それでもわからないことだらけだった。
「塔は塔だよ。オレの『力』が一番効率良く、全体に回る所」
「『力』が、全体に?」
「天国にはオレが『錠』を下ろしてるの。お前はオレの羽のせいでフリーパスだけど、ここに生き物がいないのは、それで入れないからだよ」
何もないように見える空も、どこかに透明の仕切りがあるらしい。
悪夢で見た空と黒い鳥の境界は、そうして死神が作っているのだという。
「何でそんな『錠』、下ろしてるんだ?」
「ここに何も入れないために。それをするためにオレは造られたから」
「……?」
坦々と話す声色にはずっと情味がない。彼が聞くから答えているだけで、意図の含まれない説明に彼はどう反応していいかわからなかった。
それらを話したところで、死神は彼に何も期待していない。その目的の無さがずっと落ち着かないままだ。
期待されるような何かを、彼が持っているわけではない。そういうことなのだろうと、嫌でも感じてしまう。
それならこの地に彼がいる意味もないのに、他に行くべき場所もとんとわからない。
死神の力で彼の意識がまだしばらく続いてしまうなら、この存在の無意味さが胸苦しかった。
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