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 何かやりたいわけではない。けれど、何もしないのは辛い。  空を突く金色の塔の内で、眠る死神のそばにいても、何人も天国に入れないならその意味もなかった。 「眠ってるところ……守る必要すら、ないってことだよな」  無防備な姿は相変わらず秀麗だった。一度眠ってしまうと、無機質な寝顔には人形じみた美観がたたえられる。  性格はまだ全く掴めない。にやにやとした表情の通りのあくどさも、彼がここにいることに疑問を持たない寛容さも、「力」を分けているらしい甘さも、全てが並列に混在している。  それでいて、内心がほとんどよくわからない。隠しているわけでもなく、何も感じていないように思える。ずっと焦りだらけの彼とは真逆の平坦さだ。  それこそ感情の起伏で言えば、彼より死神の方がよほど死者じみていた。 「――」  一瞬何か、思い浮かびそうになった。胸元の蝶のペンダントも熱を持った気がする。  死神はこれを妖魔と言ったが、確かに何かの感情を持っている。「魔」らしきものであるせいなのか、聖なる天国ではこれ以上存在感を主張できないらしい。  ペンダントに意識を集中してみると、彼を心配している思いが一番大きく、何とか一言、汲み取ることができた。 ――鴉夜さんに負けちゃだめですよ、師匠!  これはきっと、天国の夢で、芝居がどうのと言っていた声だ。さらに言えば、酒も女もなくて何が天国か、と叫ぶ声でもあった。
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