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何故そんなことになるのかはわからない。しかしその後すぐ、少女は悪魔のような存在に変貌してしまった。
撃てない銃を彼から奪い、むしろ彼を殺そうと、倒れた彼に馬乗りになって額に銃を突きつけてきたのだ。
探し人がこの世から消えてしまう。それなら自らが相手の命を奪い、己の持つ黒い翼に取り込めばいいのだと、少女は歪んだ悪意に染まってしまった。
――これならずっと……一緒に、いられるから……――
妖しく微笑む両眼が金色に光り、白くて細い人差し指が、無骨な引き金を引こうとしたところで――そこで、少女の視力は途切れ、その記憶は終わっていた。
「……俺が……あんたを、殺したのか……」
「…………」
憑依された自らの体を守るため、なのだろうか。そこからおそらく、彼は隠し持っていた短刀で少女を貫いた。銃を撃てなかった、憑依していた者の代わりに。
自身の咎をそうしてはっきり、見せつけられた彼に、少女はふわりと嬉しそうに笑った。悪魔のようになってしまった時と同じ、金色の眼が闇の内で光った。
「……ヒト殺し……」
凛とした声は、ただ魅惑的だった。自分が咎人と知っていた彼には、驚く内容ではない。
けれどこれ以上、この少女に関わってはいけない。本能が警鐘を鳴らしているのに、魅入られた彼は一歩も動けなかった。
「あの死神さんも……殺してしまえば?」
少女をここまで追い詰めたはずの彼を、むしろ誘い込んだとわかる、黒ずくめの少女の甘いささやき。
この場所を、出たいんでしょう? と、少女は柔らかな声色で続けた。
「そうしたら、汚れたヒト殺しは消えられる。殺す『力』は、私が貸してあげる、から」
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