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 少女を殺した後に、自身のことも終わらせたはずの彼を生かす、想定外の死神の力。  頼んだわけでは全くなかった。むしろ解放してほしいと、確かに彼は心から思っている。 「……今更、何をためらうの……? 私のことも、殺したくせに……」  彼がこの後、安らぎを得るためには、それが一番妥当な手段であると。死神のあの無防備さなら、たやすいことかもしれない。  そうして少女を侵していた闇が、少女の命を奪った彼にじわりと忍び寄る。  「命を奪う」とは、そういうことだった。少女が持て余していた心の闇を、少女を殺した彼が引き受けたのだ――  その少女が持っていた禁断の翼は、翼を引き受けた者を暗闇に誘う、悪しき神意の永い黒闇(こくあん)。  悪魔のささやきに近いかもしれない。ささやくだけの悪魔の方が、まだ可愛げがあった。  この黒い翼は外から体の殻を破り、心の奥までを侵す。彼の意思などまるで無視して、それなのに彼の望みとばかりに、彼のふりをして彼を動かす。  少女もずっとそうだったのだ。自分の望みで大事な相手を探していたのに、それは黒い翼の思うつぼで、心の動揺から黒い翼に主導権を握られてしまった。  いくら消えたくても、死神を殺してまでとは思いもしなかった彼に、黒い翼はするりと入り込んでくる。  何も応えられなくなった彼に、黒ずくめの少女がゆっくりと近づく。彼の肩に白い両手を回し、つぶらな金色の目が間近で彼を見つめ、彼の目を惹き寄せようと細腕に強く力を入れてくる。
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