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 それでも彼が、ヒト殺しであることに変わりはない。そんな選択を取れてしまうのは、彼が元々、多くのヒトの命を奪ってきた咎人だからだ。  最後だけは少女のために、手を汚そうと思った。それだけのことに過ぎない。  黒い翼に侵されれば、彼自身も消えてしまうことは、その時にもわかっていたのだから。  だから死神は彼を憐れみ、無表情に彼を見下ろしていた。  この死神が、気まぐれに彼を生かすことがなければ、彼はとっくに消えられていたのだ。  少女にそそのかされたからか、彼自身の恨みなのか。  膝をついていた彼は、吐き出しきれない激情のまま背後の死神の服を掴み、振り向きながら死神を引きずり倒した。 「アンタが、いるから……!」  ずっと無防備にして、隙だらけだった死神は、あっさり彼に乗りかかられた。  道端に押し倒されながら、動揺の欠片もなく無表情に見上げる蒼い目に、彼は青白い月を背にして黒い怨嗟を吐き出していた。 「俺は……アンタを、殺したい……」  黒い襟に覆われた死神の首を、強張る両手が勝手に絞めにいった。  この憎悪は何処から来るのかわからないほど、悪心で震える手に力が入った。  窒息よりも前に、細い首の骨が折れそうなほど、彼の全霊が込められた穢れた指先。  黒く歪む彼を前に、死神はふっと、見たことのあるような顔で微笑んでいた――
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