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 心の闇とは、誰にもあるものなのだと、黒ずくめの少女はかつて話した。  それが溢れ出し、世の秩序を乱すようになれば、自分が狩らなくてはいけないのだと。 ――神隠しって、この業界では言うの。闇に呑まれて見失ってしまえば、ヒトは自分を忘れてしまうの。  何のことかはさっぱりわからなかった。思ったのは、そんな闇を狩って回り、少女自身は大丈夫なのだろうかということだけだった。  案の定、少女が引き受け続けた闇は、いつしか少女の内にも強く根を張っていた。  それ以外は何も思い出せない。その闇を引き受けた彼も、自分を忘れてしまったのだ。  だからこんな風に今、情けなく座り込んでいる。  浸食してきた悪意のままに、死神を殺そうとしてしまったが、細い指の出る手袋をはめた黒い手のわずか一突きで、彼は死神の上から吹っ飛ばされた。意識を失った所を抱えられて、その後はすぐに塔に戻ったらしい。 「北の地にいるとお前はダメだね。元気が戻り過ぎるから、しばらくここで反省してなよ」  胸を強打されたせいか息苦しく、気持ちもしゅんと萎えており、先刻の憎悪は消えてしまった。  死神曰く、この天国は東西南北と中央の場所によって、彼が元気になる所と不調になる所があるというのだ。 「風の領域に入った時も、すぐに倒れたみたいだしね。ここはプラスマイナス零だろうから、なるべく北の地――水の領域には行かないこと」  坦々と忠告する死神は、怒った様子もなく、相変わらず人情味は皆無だった。
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