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 死神を殺し、羽を奪ったという彼に、死神は恨みも憎悪も抱いていない。それどころか彼にとって良いようにと、何も意識せずに自然に動いている。  相対する者にとって、何と都合の良い存在だろう。  するべきことを常に求める彼が、誰かのために都合良くなろうとした存在なら、死神は元々その生を体現している。無様な彼にはおそらく、永遠に届かない姿だった。  青白い月の下で、彼はただ、無気力に項垂れるしかなかった。 「俺は元々……自分が誰かなんて、どうでも良かったんだ」  ぺたんと座り込む前で、塔の窓枠に死神が億劫そうに座っている。  無表情に彼を見下げる死神は、どうやら彼の戯言に興味はあるようだった。 「最初から、目的だけを知ってた。誰かを助けなきゃいけなかった。それができたら、役目は終わりで……だからもう、消えて良かったのに」  彼が彼であることに価値があるとしたら――誰かを助けること、そのために生きている間だけだった。  彼にはそうとしか思えなかった。だから何もしないのは、彼には耐え難い無価値だった。  そんな彼の命を、ここに留める死神は、何故か不意に邪まさを浮かべて笑った。 「お前の望みは、間違ってるよ」  彼の心など、死神はどうでもいいのだろう。死神にとって必要なことだけを、嘲るように聞き返してきた。 「お前はそのまま……消えたいの?」
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