9人が本棚に入れています
本棚に追加
死神を殺し、羽を奪ったという彼に、死神は恨みも憎悪も抱いていない。それどころか彼にとって良いようにと、何も意識せずに自然に動いている。
相対する者にとって、何と都合の良い存在だろう。
するべきことを常に求める彼が、誰かのために都合良くなろうとした存在なら、死神は元々その生を体現している。無様な彼にはおそらく、永遠に届かない姿だった。
青白い月の下で、彼はただ、無気力に項垂れるしかなかった。
「俺は元々……自分が誰かなんて、どうでも良かったんだ」
ぺたんと座り込む前で、塔の窓枠に死神が億劫そうに座っている。
無表情に彼を見下げる死神は、どうやら彼の戯言に興味はあるようだった。
「最初から、目的だけを知ってた。誰かを助けなきゃいけなかった。それができたら、役目は終わりで……だからもう、消えて良かったのに」
彼が彼であることに価値があるとしたら――誰かを助けること、そのために生きている間だけだった。
彼にはそうとしか思えなかった。だから何もしないのは、彼には耐え難い無価値だった。
そんな彼の命を、ここに留める死神は、何故か不意に邪まさを浮かべて笑った。
「お前の望みは、間違ってるよ」
彼の心など、死神はどうでもいいのだろう。死神にとって必要なことだけを、嘲るように聞き返してきた。
「お前はそのまま……消えたいの?」
最初のコメントを投稿しよう!