antique 1

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「マリちゃん…もしかして、 田口と付き合ってる?」 マリの心臓が冷たくドキリと音を立てた。 田口とは桔平の部下だった。 今回の仕事の紹介は田口の口利きだった。 「………そんな…付き合ってなんて…」 「蓮たちは知らないだろ?」 マリは観念したように下を向くと、こくんと頷いだ。 田口は既婚者だった。 大学の同級生で、三ヶ月前に偶然再会した。 奥さんが妊娠中という……よくある、旦那の浮気からの不倫関係だった。 「田口の奥さん、もうすぐ産まれるって知ってるよね?」 マリは下を俯いたまま頷いた。 「君は蓮の大切な友達だから、傷付けたくないんだよ……あいつ、奥さんが戻って来てもずっとマリちゃんに会おうとするぜ?悪い奴じゃないし、仕事もできるけど…でも…良くないと思うから…」 桔平が何を言おうとしているか分かった。 マリを傷付けないように、穏やかに優しい口調で話している。 マリの口から笑みがこぼれた。 この場とは不釣り合いな、笑い声が小さく響いた。
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