第1章 「永澤 剛」(ナガサワ ゴウ)

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   9  レンタカーは下仁田インターチェンジの出口で高速道路を降り、山道を入って行った。もう直ぐ夜が明ける。日の出までにある程度山道を進み、四号トンネルの手前にあるコンビニエンスストアの駐車場で休憩するつもりでいた。  コンビニエンスストアの駐車場から三清山賀製薬の正門までは二キロくらいだからそこまで行けば安心できる。打ち合わせに何度か車で来た事があったので、この辺りの土地勘は持っていた。  山道といっても、幾つかの山の麓を通り抜け、国道に繋がるようにして造られている道路なので、コーナーは多いが急な坂道という訳ではない。  平成に入ってすぐに国道まではほぼ一直線のバイパスが出来たので、今では抜け道して使われる旧道だ。  このルートには六つの古ぼけたトンネルがあり、下仁田インターチェンジ側から一号、二号…六号と呼ばれている。五号トンネルを出てすぐのところに三清山賀製薬の本社へ通じる分岐路があり、六号トンネルを出ると動物園へと続く分岐路がある。  この辺りで目立つ施設はその二つくらいだ。  これらのトンネルは、昭和初期に旧日本陸軍が物資の輸送を円滑にする為に短期間で造った。囚人に粗末な工具を与え手で掘らせたとも言われているが真相は定かではない。  ただ地盤が緩く何度も地下水が湧き出て崩れ、たくさんの死者が出たのは確かだ。  どのトンネルもトラック二台が余裕ですれ違えるほどの大きさだから、相当過酷な工事であった事が伺い知れる。
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