第2章 「進藤 達也」(シンドウ タツヤ)

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   6  その頃、かわぞえひかり幼稚園「コアラ組」もまた地震の影響でざわついていた。  進藤里奈がいるクラスだ。  通園時間の途中だったので、里奈のようにすみれ組に兄姉がいる子どもか、早めにきた数人しか教室にはいなかったがみんなテーブルの下に避難していた。 「もう大丈夫、みんな出ておいで」担任のひろこ先生がそういうと、歓声とともに出てきてひろこ先生を取り巻いた。さほど怖がってる様子もなくひろこ先生は安心した。でも、里奈が出て来ない。テーブルの下でうずくまって全く動かないのだ。  心配になったひろこ先生は里奈のそばに行くと話しかけた。 「もう大丈夫だよ里奈ちゃん。地震は逃げてっちゃたよ」そして屈んでテーブルの下を覗き込むと、両手を広げた。 「おいで里奈ちゃん、先生が抱き締めてあげる」  里奈は先生をチラリと見た。両目から次から次へと流れる涙。 「先生のところにおいで」  里奈はテーブルの下から抜け出すと先生の懐に飛び込んだ。ひろこ先生は里奈を抱き締め立ち上がると、お尻をポンポン優しく叩いた。 「もう大丈夫、大丈夫」 「ジシンハコワクナイ」泣きながら震える小さな声で言った。 「凄いね里奈ちゃん、凄い凄い」  ひろこ先生は小さな体を愛おしそうに抱き締めると頭を撫でた。 「…カエッテコナイ」 「誰が? 」 「オニイチャン」里奈はたどたどしくそう言うと先生にしがみついた。  そして今度は大声を上げて泣き始めた。 「大丈夫大丈夫だって、地震じゃライオンバスは壊れないよう」  里奈は全く聞き入れない。ひろこ先生の洋服に染みができるくらいひとしきり泣いた──困惑するひろこ先生。里奈は一人、何か特別なものを感じているらしかった。  ひろこ先生は何も言わず、赤ちゃんにそうするように、ゆっくり揺らしながら外を見つめた。  ──里奈はそのうち疲れて眠った。
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