61人が本棚に入れています
本棚に追加
/169ページ
6
その頃、かわぞえひかり幼稚園「コアラ組」もまた地震の影響でざわついていた。
進藤里奈がいるクラスだ。
通園時間の途中だったので、里奈のようにすみれ組に兄姉がいる子どもか、早めにきた数人しか教室にはいなかったがみんなテーブルの下に避難していた。
「もう大丈夫、みんな出ておいで」担任のひろこ先生がそういうと、歓声とともに出てきてひろこ先生を取り巻いた。さほど怖がってる様子もなくひろこ先生は安心した。でも、里奈が出て来ない。テーブルの下でうずくまって全く動かないのだ。
心配になったひろこ先生は里奈のそばに行くと話しかけた。
「もう大丈夫だよ里奈ちゃん。地震は逃げてっちゃたよ」そして屈んでテーブルの下を覗き込むと、両手を広げた。
「おいで里奈ちゃん、先生が抱き締めてあげる」
里奈は先生をチラリと見た。両目から次から次へと流れる涙。
「先生のところにおいで」
里奈はテーブルの下から抜け出すと先生の懐に飛び込んだ。ひろこ先生は里奈を抱き締め立ち上がると、お尻をポンポン優しく叩いた。
「もう大丈夫、大丈夫」
「ジシンハコワクナイ」泣きながら震える小さな声で言った。
「凄いね里奈ちゃん、凄い凄い」
ひろこ先生は小さな体を愛おしそうに抱き締めると頭を撫でた。
「…カエッテコナイ」
「誰が? 」
「オニイチャン」里奈はたどたどしくそう言うと先生にしがみついた。
そして今度は大声を上げて泣き始めた。
「大丈夫大丈夫だって、地震じゃライオンバスは壊れないよう」
里奈は全く聞き入れない。ひろこ先生の洋服に染みができるくらいひとしきり泣いた──困惑するひろこ先生。里奈は一人、何か特別なものを感じているらしかった。
ひろこ先生は何も言わず、赤ちゃんにそうするように、ゆっくり揺らしながら外を見つめた。
──里奈はそのうち疲れて眠った。
最初のコメントを投稿しよう!