運命

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運命

母の田舎は自宅から2時間、バスで20分そこから歩いて15分のところにある、ドのつく田舎だ。 山と山の谷間、裏山には小さな滝があり清流が川を作る。澄んだ空気、緑生い茂る自然は都会で暮らす僕にとって真逆で息の抜ける癒しの場所だった。 祖母は5年前に祖父を亡くし独りで住んでいる。そこに夏休みの間中、僕は祖母と暮らす。 母と離れることは寂しくはなかった。それに以前から恋人がいることぐらいわかっていた。ただ慎重になっている母は真面目な人だし、僕を愛してくれていることはことはわかっている。だからこそ僕のいない間、恋人との時間を作ってあげたかった。 祖母はやんわりした自己主張をしない人で、きっと祖父に頼って生きてきた人なんだろう、夏休みは祖母に頼られ、一緒にいる間中、主導権は僕にあった。 近くの滝側に行くのが日課で、そこはマイナスイオンで満たされている。夏なのに山からの風は少し冷たくて、底が見える透き通った水面に平らな石を投げて遊ぶのが大好きだった。 そして大好きな同い年の彼が遊びに来てくれる。橘 洸(たちばな こう)は、初めて出会った小1の頃から毎年僕が帰るのを心待ちにしてくれていた。そう僕も彼に会えるのを楽しみに帰省していた。 全てのものを競い合う都会の暮らしと違って、何も考えず僕自身ありのまま出いられる場所。 成績、塾、身なり…全ての物を競い合い見栄を張り合う、大人達の恰好の玩具。そんな環境に母は少し浮いていた気がする。 大手と呼ばれる会社で役職に就き、所謂キャリアウーマンだ。高収入、高学歴、それでいて美人。そんな母が何故一人で子供を育てているのかよく噂をされていた。それに屈せず母は堂々と僕を育ててくれていた。 そして少6の夏。毎年恒例の祖母の家に向かう。その道中に母はこう切り出した。 「翔(かける)、ママね結婚しようと思うの。翔のお父さんと」 僕のお父さんと結婚…それは傷口を小さく中で破裂しそうなくらい大きな衝撃が広がった。 「僕は中学から寮生活だし母さんのしたいようにすればいいよ。僕はなんだって賛成するよ」
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