月の生

2/6
前へ
/27ページ
次へ
何の音もしない世界。 何も見えない世界。 自分は死んだのだろうか。 これから地獄へ行くのだろうか。 もう二度と、彼女に会えない事だけは確かだ。 穢れなど知らない綺麗な魂の彼女は、必ず天国へ行くだろうから。 結局、感謝の一つも伝えないままになってしまった。 生に縋るつもりは無いけれど、それだけは悔やまれる。 自分のせいで傷付いた彼女は、今幸せだろうか。 こんな自分にも、彼女の幸せを願う事位は許されるだろうか。 そう思った時、誰かの手が額に触れるような感覚があった。 小屋で伏せっていた頃を思い出す、懐かしい感覚。 (神無……) その名を心で呼んだ瞬間、ふっと意識が覚醒した。 ゆっくりと目を開けると、微笑む娘の姿が見える。 「良かった……!気が付いたんですね」 耳に届く、柔らかな優しい声。 (神無……?) 唇を動かして呼ぼうとしたが、上手く言葉が出て来なかった。 黙ったまますぐ側に座る娘を見詰め、妙な事に気付いた。
/27ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加