1.お風呂の思い出

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二人はよく、どちらがより長く湯船に潜っていられるかで勝負をした。普段なら勇輝は30秒程度しか潜っていられないので兄の幸一が勝つのだが、今回は1分を過ぎても勇輝はその状態のまま上がってこなかった。幸一は心配になり、 「おい!大丈夫か!」 と声をかけ弟の肩をたたいた。すると、勇輝が洗面器から両手を離し勢いよく洗面器が水面に飛び出した。その後、ザバっという音とともに勇輝が湯船の中から顔を出した。 「息できるからぜんぜん大丈夫だよ。にいちゃんもやってみてよ」 半信半疑ながら、幸一は勇輝の説明通り洗面器をさかさまにしたまま湯船に沈め、その後自らも潜って、水中にある洗面器へ顔を入れてみた。 (あれ?ここだけ空気がある。ほんとに息ができる) 勇輝の言うように、水中にいながら自分が両手で沈めている洗面器の中だけは、空洞になっていて息ができた。 (これ、すげーや) ちょっとした感動を覚えたので幸一はしばらくそのままの状態でいた。すると水面から 「こうたーい!こうたーい!」 と勇輝の声が聞こえてきたので、幸一は洗面器を離して湯船から顔を出した。
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