1.お風呂の思い出

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「勇輝、これ凄いな」 「でしょ!次、おれー」 勇輝が洗面器を沈め潜っていく。心地よさそうに洗面器に顔を入れている弟に何か悪戯をしたくなった幸一は、驚かせてやろうとお風呂の電気を消して真っ暗にした。 幸一は弟がすぐに上がってくると思っていたが、予想に反して勇輝は上がってこなかった。そして、しばらくして湯船の中から顔を出した勇輝が不思議そうな顔をして言った。 「にいちゃん、真っ暗だとね、不思議な感じだよ。やってみて」 幸一は真っ暗な湯船に洗面器を沈め、先程と同じように顔を入れた。 (ほんとだ。不思議な感じだ…) 先程は湯船の中だとしっかり認識できていたが、真っ暗で何も見えないと、自分がほんとに湯船の中にいるのかわからなくなる。 (お母さんのお腹にいたころって、こんななのかな) 温かく優しいお湯に包まれて息をしながら、幸一はそんなことを思っていた。
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