第1章

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白と黒の押しボタン。 押せばそこの場所に設定された音が鳴る仕組みだ。 少年には何が楽しいのか分からなかった。 ただただバラバラに動かす指が、教師である父親の気にいる音が出せなければ、鞭で叩かれる手の甲が痛いだけの苦行。 少年が苦行を強いられてまで弾かされているのはピアノと呼ばれる楽器だ。 この国では年に一度、ピアノコンクールがあって、ピアノを弾いて、優勝した者はどんな者でもこの国の王となれるチャンスを与えられるし、上位に入った者はそれなりの権力と財が与えられるという狂った決まりがあって、何故そんな決まりが出来たのかというと、大昔に世界中のお偉方が集まって決めたらしい。 なんでも、歴史書に書かれている理由はこうだ。 『他者が惹かれる秀でた才能を持つ人間が玉座に着けば、人は自ずと王を支える為に様々な手法を用いて国に貢献し、国を繁栄させ、国の繁栄は世界の繁栄に繋がるだろう』 という事だ。当時、少年には少し分かりにくい表現だったが、同じ歴史の授業を受けていた隣の少女が、「推しの為に何度も映画館に足を運んだり、グッズを買ったり、同じ漫画や映像を鑑賞用、保存用、布教用と最低三つは買っちゃうアレ的な感じね」と呟いていたので何となくわかった気がした。
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