第1章

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他者が惹かれる才能の設定は、国によって違うが、少年が暮らすこの国ではピアノの才能という事になっている。 おかげで、生まれて物心着く頃には、同年代の子と遊ぶ暇など与えられず飽きるほどピアノばかり弾かされていた。 少年には、2つ上のミュジィーという兄が居たが、ミュジィーは所謂神童というやつで、ミュジィーが父に怒鳴られたり鞭で叩かれたりした所を見た事が無かった。 むしろ、トップクラスの演奏者である父の理想を遥かに超える演奏で、練習曲を弾いた程度で父が感涙しているくらいだ。 「ノト、お前もピアノコンクールで良い成績を収めて、兄であるミュジィーが王になった暁には側で支えて行くのだ」 ノトと呼ばれた少年は、幼い頃いつも父にこう言われていた。 長ずるに連れノトにピアノの才は無しと、いつの間にか父が見限った頃までの話だが。 父はあれほど厳しい指導の割には、あっさりとノトを見限った。 立派な跡継ぎが居たし、その跡継ぎを支えられる男が別に居たからだ。名はスコアと言って、父の親友であり使用人の息子だ。 スコアはノトより5つ年上で、同じ屋敷に住みノトやミュジィーの父の指導を受けていた。 父は才能を持つ者に対しては、身分を問わず寛容だった。 反面、才能のない者に対しては実の息子であろうと狭量だったが。
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