第1章

4/20
前へ
/130ページ
次へ
ノトは政略結婚だったせいで、産まれてすぐに居なくなった母や、自分に冷たい父、弟に興味の無い兄よりも、屋敷の主人の息子だからか、それとも敬愛する兄の弟だからという理由か、或いはその両方かも知れないが、それなりに構ってくれるスコアの事が大好きだった。 だから、スコアが 「お前もいずれは、ミュジィー様に及ばないまでも弾けるようになるさ。兄弟なんだから。俺と2人でミュジィー様を支えられるように頑張るんだ。良いな?」 「はい!スコア兄さん」 と、笑って頭をクシャクシャと撫でるから、出来ないなりに父が見限るまでは頑張ったのだ。 因みに、この家では身分関係なく、ピアノを弾ける人間の方が偉いから、スコアはノトに対してタメ口で大丈夫で、ノトはスコアに対して、敬語でさん付け呼びだ。 ノトはスコアが無遠慮にノトの頭をかき混ぜる仕草も好きだったが、スコアが朝や乱れた時にミュジィーの後ろだけ伸ばされた髪を、長く美しい指と懐に忍ばせているスコアの母の形見である大切な櫛を使って、綺麗に整え、後ろに一本にまとめてリボンで結んでやる姿に憧憬を抱いた。 いつかは自分もという、兄と同じように伸ばした後髪は、周りは兄に憧れてと勘違いしたが、叶うはずの無い浅ましい願いからである事はノトだけの秘密だ。
/130ページ

最初のコメントを投稿しよう!

52人が本棚に入れています
本棚に追加